ここでは各種機動戦術を紹介します。
展開戦術(展開機動)
上図は展開機動の様子を図で表したものです。先頭の味方が正面の敵を制圧射撃にて拘束し、その間に後ろの部隊は右ないし左に展開します。これを右翼展開又は左翼展開。両方に展開する場合は、両翼展開と言います。
展開戦術は、単純に横に広がるだけですが、敵の火力を分散できるのに対して、こちらの火力を集中することが出来ます。ただし連携出来ないほど離れてしまうと、戦力の分散につながるため注意する必要があります。
包囲機動
上図は包囲機動を図で表したものです。先頭の味方が敵正面を拘束している間、後方の部隊は敵側面に移動し、攻撃します。右に包囲する方法を右翼包囲。左に包囲する方法を左翼包囲と言います。
包囲機動は、敵の正面と側面から挟撃することに意味があります。正面及び側面からの攻撃を受けた敵は、徐々に斜め後ろに後退し、やがて追撃され撃破されます。
包囲機動を行う際は、出来る限り両翼包囲を行わないようにします。また全周を包囲することは、非常によくないとされます。片翼包囲の利点は、敵の心理を 「まだ後退すれば生き残れる」 という状態に持っていけることです。これは実際の戦闘で証明されていますが、このような心理状態下に置かれた敵部隊は斜め後ろに後退し始める物の、士気は完全に落ち、さらに包囲部隊の計画的な追撃を受けるためやがて戦力を分散し、壊滅することが多いようです。
敵の全周を包囲することは、”窮鼠猫をも噛む” という言葉に如実に表されています。逃げ道のなくなった敵は、「生き残るため、必死に戦う」という決意を決めます。集団の中でこの決意を決めた兵士は、降伏を勧告してもなかなか受け入れず、また攻撃すれば虎と戦うような勢いで必死に抵抗して来ます。これではせっかく全周を包囲出来たのにもかかわらず、衝突すれば多大な被害を出してしまいます。孫子の兵法にはこのように書かれています。
孫子曰く 囲師(いし)には必ず闕き(かき)、窮寇(きゅうこう)には迫ること勿れ。此れ用兵の法なり。
孫子は言った。包囲には必ず逃げ道を作り、窮地に追い込まれた敵には近づくな。これは戦いの原則である。
他にも攻撃三倍の法則というものがあります。防御1人の陣地を攻め落とすには、3人必要となるという原則です。もし100人が防御陣地を作った場合、単純計算で攻撃側は最低300人は必要となるということです。やはり敵に防御されるということは、攻撃側にとっては不利となるのです。
ですから、逃げていく敵、つまり背中を見せた敵を斃せばいいのです。そうすれば、敵に対し正面切って戦う必要が無くなります。
迂回機動
上図は迂回機動を図で示したものです。迂回機動は、敵に迂回していることが悟られないよう移動し、敵の背後や退路、背後連絡線を断ち切ることに意味があります。
突破機動
上図は突破機動を図で示したものです。突破機動は、迂回も包囲も出来ないほどに敵の防御網が行き届いている際に使用します。上図には載っていませんが、突破機動は4つまでの流れがあり、3番の分断が完了後、敵の背後を断つように包囲機動に移ります。
延翼
上図は延翼の機動を図で表したものです。延翼は、敵の包囲や迂回機動に対する初歩的な対処方法です。部隊を横に延長することで、こちらの側面や後方へ敵に廻られることを防ぎます。ただし部隊を延長したために、戦力の分散につながりやすく、薄くなった防御のところに突破機動をされると、その後の対処が難しくなります。
敵旋回包囲軸への攻撃
上図は敵旋回包囲軸への攻撃を図で表したものです。これは、包囲や迂回へと動こうとする敵の部隊を補足攻撃し、動きを封ずるものです。迂回や包囲へ動く敵部隊を補足、攻撃することが出来れば、時間稼ぎや機動性の確保を行うことが出来。場合によっては敵の迂回や包囲の作戦を失敗させることも出来ます。
陣地正面の変更
上図は陣地正面の変更を図で表したものです。敵の包囲部隊や迂回部隊に対応するため、主力を包囲部隊や迂回部隊に当たらせ、陣地正面を変更します。
斜行陣
上図は斜行陣を図で表したものです。敵の展開や包囲、迂回などに対応するため、陣地を斜めに変更します。さらに敵の旋回包囲軸に対し攻撃できるのであれば、攻撃を実施します。
鈎形陣
上図は鈎形陣(こうけいじん)を図で表したものです。敵の展開や包囲、迂回などに対応するための陣ですが、すでに敵に対し包囲や迂回をされた際の最後の防御策ということになります。敵の火力が集中しているのに対して、味方の火力は分散しているため、防御側であっても不利です。この場に居続けても戦闘の打開は難しいため、緊密で且つ迅速な撤退戦を行わなければなりません。追撃側が圧倒的に有利なので、撤退側は戦力が分散しないよう且つ、敵が主力に追いつかないよう、遅滞行動をとるなどして時間を稼がなければなりません。敵から逃げるということは、敵を攻める事よりも難しくなる場合があります。
また場合によっては、守勢から一気に攻勢に転じ、敵の正面や包囲部隊どちらかに対して突破機動を行う手もあります。
敵の火力は集中しているものの、敵部隊同士はこちらよりも離れているため、戦力はこちらよりも分散しています。つまり100対100の場合、50の部隊と50の部隊に包囲側は分かれているということです。その一つの50の部隊に対して防御側が100で突破を仕掛けるのです。
歴史上の戦いで、敵包囲網に対し突破機動を行い突破した例がいくつかあります。たとえ100人に囲まれていたとしても、その包囲している100人の内の一人に防御側の100人が襲い掛かれば、たとえ包囲していたとしても、いともたやすく突破口が出来てしまうということです。
つまり包囲側も包囲側で、防御側より火力は集中できても戦力は分散してしまうという点に注意しなければなりません。